感想とメモ

少し旬が過ぎてしまったが、4月からユーロ圏で過ごすこともあり、通読した。
気まぐれに、得られた知識をメモしておきたいと思う。

第I章では、ユーロ導入でどのような効果があったのかを概観する、
ユーロが主として物価安定と低金利化をもたらしたことがデータをもとに示されており、本章を立ち読みするだけでも得るものがあると思う。

個人的に、第II章の統一通貨導入までのいきさつについての記述がよくまとめられていると思った。
大いに語弊があると思うが、まとめられた記述を更に自分なりに要約してみた(引用ではない):

1970年の『ウェルナー報告』に始まる通貨統合の試みは、各国の経済安定への懸念や、権限の委譲の方法の不明瞭度から、一時破綻した。 特に、当時、物価安定重視・貿易黒字だった西ドイツと、経済成長重視・貿易赤字だったフランスとの間には、経済政策路線に大きな隔たりがあり、各国が変動相場制に移行したことで、その隔たりはさらに大きくなった。
変動相場制の導入で欧州各国で経済が不安定化するなか、ドイツ・フランスの両国は1978年に『EMS設立会議』をスタートさせる。 フランスでは完全雇用政策を犠牲にする必要が生じ、失業率が上昇したが、シュミット大統領の手腕でこれを切り抜けた。 また、ドイツでは、厳しくなる一方の外部環境(アメリカドルの大変動など)に対して、マルクをEMSの基軸通貨として確立し、ユーロ導入への道を開いた。
その後EMSが安定度を高めたことと、ヨーロッパがアメリカ・日本に比べて経済的に劣位になっていたことが要因で、単一市場完成への機運が高まった。 1987年の単一欧州議定書発効を機に、統合への動きは加速した。 当時の西ドイツでは、安定したマルクを放棄することへの懸念が大きかったが、EMSの金融政策を支配するこの国に対して、フランスを初め、各国は批判的だった。 1989年、東西ドイツが統一へ動いたが、EC各国ではドイツの独り歩きが「再び」始まるのではないかという不安が広まった。 各国はドイツの統合に反対し、ドイツはマルクを放棄するという条件のもとでの統一の道を提示、各国はこれを飲んだ。 当時のコール首相は「欧州統合は平和か戦争かの問題だ」と繰り返し、世論を押し切ったのである。

第III章では、ユーロの仕組みと役割、制度についての解説がなされている。
欧州中央銀行と各国中央銀行との関係や、金融政策、市場介入などの仕組みなどが述べられていた。 初学者の自分には、初めて知ることばかりであり、また、多少難解に感じた箇所もあることから、何度か読みなおす必要を感じた章である。

第IV章、第V章では、世界金融危機を主に欧州の視点から概観している。
筆者によれば、世界金融危機は3段階に分けられる。

  1. バリバ・ショックからリーマン・ショックまでの米欧危機段階
  2. リーマン・ショックから09年代までのグローバル恐慌危機段階
  3. 09年代からの不況段階

現在ニュースで目にするギリシャ危機や南欧危機は第3段階目にあたり、未だに収束していない。
ギリシャ危機の特徴について2行でまとめると

  • サブプライム危機など:アメリカで起きた危機。いわば対岸の火事。EUの各国への融資をはじめとする対策によってなんとか切り抜け、ユーロの求心力は高まる
  • ギリシャ危機:ユーロ圏内で起きた危機。ユーロ圏の抱える制度的・構造的な問題が浮き彫りとなる

という感じになると思う。

以下IV,V章で印象に残った箇所の引用:

(p150)

経常収支の大幅赤字、外国銀行からの巨額の借入、外貨依存という三つの点で、中・東欧諸国のん状況は九七年の東アジア通貨危機の諸国(タイや韓国など)に似ている。 にもかかわらず銀行危機が起きていないのは、西欧の銀行支配のおかげであり、東アジアのように脆弱な金融システムではなかった点が大きい

(p166,167)

南欧支援の巨額の安定化策が最終決定したのは五月九日夜であった。 (中略) すなわち、七五〇〇億ユーロという膨大な額の金融安定化メカニズムを創設するもので、うち最大五〇〇〇億ユーロをユーロ圏諸国と欧州委員会が分担、さらにIMFが最大二五〇〇億ユーロを共同支援する。 (中略) なぜ七五〇〇億ユーロ、九〇兆円もの莫大な学になったのだろうか。それはユーロ圏諸国の危機感の裏返しといえる。 ユーロはユーロ圏諸国にとって「後戻りできない壮大な実験」である。 市場からのユーロの信認をつなぎ止めるのはいわば「至上命題」であった

全体を通して、僕のような完全な初学者ではフォローできない箇所が目立った。 テクニカルタームへの理解が足りず、金融論に関する知識をもっと増やす必要を感じた。 以前読んだ、新保恵志著『金融商品とどうつき合うか―仕組みとリスク (岩波新書)』で得た知識は少なからず読解に役立ったと思うので、こちらも読み直したい。

感想を書いてみての感想

普段本を読んだ後何もアクションすることがないので、得られた知識が3日と保たないことが多いが、こうしてまとめてみることで、知識が整理される気がする。
これからも続けていきたいが、義務化してしまうと本を読む気が失せる危険があるので、あくまで気まぐれに続けていきたい。