筆者は終始「節目の期間はしっかりキャリアについて考える。それ以外の期間では目の前のことに打ち込み、時には偶然に流される(ドリフトする)ことも必要」という主張に徹する。 なので、この主張を真に理解している人は本書を手にする必要はないと思う。
本書のメインターゲットは就活生とミドル世代の2種類である。 また本書では、これらの層を想定したいくつかのエピソードやエクササイズが紹介されていて、キャリアデザインを「自分の問題」として考えさせる工夫が凝らされている。
個人的に、以下の自己イメージに関するエクササイズに考えさせられた。
- 自分はなにが得意か。
- 自分はいったいなにをやりたいのか。
- どのようなことをやっている自分なら、意味を感じ、社会の役に立っていると実感できるのか。
それぞれの問いは
- 能力・才能についての自己イメージ
- 動機・欲求についての自己イメージ
- 意味・価値についての自己イメージ
を照射しているという。キャリアを意識する上で、避けては通れない質問だと感じた。
また、筆者は本書のはじめに「研究に基づく見解」を披露すると述べており、個人的に「キャリアデザイン」という科学らしからぬ問題に対して、どのような研究が存在するかが興味をもった。
実際には、多数の論者の言葉や考え方を引用するものの、定量的な考察はあまり見受けられず、「研究」という言葉の意味の齟齬を感じた(多分これは僕の考える「研究」があまりに狭義であるため)。
しかしながら、それらの考え方の中には、確かにそうだな、と実感させられるものもあり、キャリアに対する態度を改める必要すら感じた。
例えば、筆者が参加したエンジニアリング産業の社長会に参加した際、ある社長から耳にした言葉と、それに対する筆者の考えなどは、覚えておきたいと思った。
「エンジニアリング産業の海外エンジのプロジェクトなんて、(中略)勘のいいバイタリティあふれる人なら、三十歳を超えるころには、だいたいプロジェクト・マネジメントができるようになる。そのあとは何箇所経験してもいっしょだ」
この発言は、キャリア・トランジション・サイクルというモデルの重要さを説くための例として用いられている。 このモデルは、ロンドンビジネススクールのナイジェル・ニコルソンにより提唱されたもので、
- 新しい世界に入る準備段階
- 実際にその世界にはじめて入っていって、いろいろ新たなことに遭遇する段階
- 新しい世界に徐々に溶け込み順応していく段階
- もうこの世界は新しいとはいえないほど慣れて、落ち着いていく安定化段階
の4段階からなる。筆者によれば、このサイクルを螺旋状に上昇させていくことが、キャリアを発達させるために必要なことであり、上述の社長のようなサイクルは、望ましくないのだという(もちろん筆者は、エンジニアリング産業を批判したいわけではない)。
全体を通して、共感できないというか、納得できないというか、そういう記述もあり、それらはひとえに僕に社会人としての経験が不足していることによるものだと思う。 もしかすると、10年後くらいにもう一度読み直すことになるかもしれない。