ジャレド・ダイアモンド著の『銃・病原菌・鉄』を読みました

大作と呼ばれる本作品、昨年末から積ん読していたのですが、この度の旅行のお供にした結果、ようやく読了に至る運びとなりました。 著者の主張は一貫して明らかで、「地球上の文明の進歩に差がついたのは、地理的・生態的な要因によるものだ」というものです。 例えば、「ユーラシア大陸がアメリカ大陸を侵略して、逆ではなかったのはなぜか」という問いに対する究極の答えは、「ユーラシア大陸の方が多様な動植物が住んでおり、かつ東西に長い形をしていたから」と述べられています。 順番としてはこうです。 ある土地に多様な動植物が分布しているとします。 すると、これら動植物を狩猟して、ヒトは増えることができます。 つぎに、ヒトはそれらの動植物を栽培・家畜化しようと考えます。 たくさんの動植物がいると、その中で栽培・家畜化可能な動植物が存在する確率は上がります。 栽培・家畜化が成功すると、人々の分業が進みます。 分業により人々の暇な時間が増えることで、さらなる栽培・家畜化のみならず、武器や移動手段などの発明が進みます。 ここで、文化や発明などは、南北方向より、東西方向に広がりやすいことが知られています。 東西方向の方が、気候や植生などの環境が似通っているからです。 大陸が東西に長いと、文化や発明の交流が活発に進みます。 逆に、南北方向に長いと、砂漠などの異なる気候がヒトの移動を阻み、交流が起きづらくなります。 ユーラシア大陸には多様な動植物が住んでおり、かつ東西に長い形をしていました。 南北アメリカ大陸はユーラシアほどの動植物が住んでおらず、大陸の形も南北に延びていました。 結果、ユーラシア大陸がアメリカ大陸を侵略する歴史になったわけです。 本書の主張はこのように単純明快で、概要は序章と終章を読むだけで事足ります。 では、間の全19章には何が書かれているのでしょうか。 著者は、上で述べたような問いをその都度立てて、それに対する答えを膨大なデータとともに考察しているのです。 例えば「同じユーラシア大陸の中で、ヨーロッパの国々と中国を比べたとき、ヨーロッパが先進国となり、逆にならなかったのはなぜか」などです。 回答は是非本書を読んでお確かめください。 全体を通して、歴史という一回性の出来事に対して、定量的な評価を行うことで、科学として扱おうとする、作者の歴史科学者としての信念が見て取れました。 個人的には、フォンノイマンが経済現象を数式を用いて定式化することで、ゲーム理論という新たな枠組みを提唱したことと似たものを感じました。 さて、これで積ん読は全て消化したため、つぎは何を読もうか、とても悩ましいです。

March 7, 2016

複数の専門をもつことの重要性

技術者として生きていく上で、複数の専門をもつというのは、重要な戦略になることを最近実感している。 例えば、僕の専門は制御工学であり、学部・大学院とともに、紙とペンを用いて理論寄りのテーマを研究してきた。 研究を通じて統計学や最適化、授業を通じて機械工学や電気・電子工学などを幅広く学んではきたが、それでも「専門」として答えられる分野は制御くらいしかない。 翻って今の上司を見てみると、航空工学と統計学のダブルディグリーで修士号を取得後、博士では航空機に対する状態推定と制御に関する研究をしている。 さらにソフトウェアの開発にも精通していて、趣味としてモバイルアプリの開発もおこなうという多才ぶりだ。 「ある分野で10人に1人の人材である人が、別の分野でも10人に1人の人材であるならば、両分野に関連する領域では100人に1人の逸材であることを意味する」という推論は、キャリアを考える上で重要な考え方のように思われる。 ここで大事なのは、やたら何にでも手を出すのではなく、相性のよい分野を選択しリソースを割くことだろう。 さもなくば、分野同士の共通領域がなくなってしまい、活躍できるフィールドも限られてしまうからだ。 また、あまりにありがちな組み合わせを選択するのも、よい戦略とは言えない。 なぜならば、上記の推論は、両分野に属する人材が独立に分布しているという仮定にもとづいているからだ。 例えば機械と電気は切っても切れない関係にあり、その両方を学ぶ人は多いだろう。 そのため、両分野それぞれで10人に1人の人材になれたとしても、それらをまたがる領域で100人に1人の人材になれるとは限らない。 互いに重複する分野のなかでも、少し意外性があるが実は相性がよい、そういった領域を選択するのがいい。 現代のものづくりの傾向を考えてみると、大規模で高度なシステムほど、コストやリスク削減のために、ソフトウェアによるモデルベースでの開発が重要になってきている。 このため、技術者志望の僕にとって、プログラミングやデータベース管理などに精通しておくことは、アドバンテージになるだろう。 しかしこれは意外でも何でもない。 中央大学の竹内先生が仰るとおり、これからの理系の研究者に必要なのは文系力であるということを鑑みれば、経営やマネジメントを学ぶのも意義深いだろう。 「専門」というテーマからは少し離れるが、語学は絶対に身につけたほうがいい。 世界的に技術者は不足しており、使える言語が増えるほど、働く領域が増えるのは言うまでもないからだ。 実際僕自身、ヨーロッパに来てからというもの、どうしてもっと早く英語を勉強して来なかったのかと毎日のように後悔している。 しかしながら、ポジティブに考えれば「日本語ができる技術者」というのは世界的にも稀だという見方ができ、これが現在僕が日本で働くことを希望する理由の一つになっている。 さて、ここ数日考えたことを適当に書き散らした。 いずれにせよ、終身雇用制度が崩れ、スキル無くして生き残るのは難しい今、リストラに怯えるような毎日を送らないためにも、自主的に勉強する習慣は常に身につけておきたい。

February 12, 2016

Markdownを使って論文っぽい文章を書く

概要 インターン先で進捗をレポートにまとめるよう言われたので、この機会を利用して、Markdownで全部書いてみようと思い至りました。 Markdownはとても便利な記法ですが、引用や相互参照については少し手が届かないところがあります。 そこで今回、pandocとその拡張ツールであるpandoc-citeproc及びpandoc-cross-refを用いて、論文(っぽく見える文章)をMarkdownで書く環境を整えてみました。 あわよくば修論をこれで書きたい。 僕の環境 OS X El Capitan MacTeX 2015 cabalのインストール 今回使うツールであるpandocをインストールするために、cabalを導入します。 cabalとはHaskellのライブラリ管理ツールです(Pythonでいうpipみたいなもの)。 cabalはbrewからインストール可能です。 brew install cabal ついで cabal update で最新の状態にアップデートします。 またこのままでは、cabalで管理するパッケージをターミナルが認識できないので、パスを追加します。 .bash_profileに export PATH="/Users/user_name/.cabal/bin:$PATH" を追加します。 ちなみにホームディレクトリに.bash_profileがあるかは ls -la コマンドで確認できます。なかった場合は touch .bash_profile で作成してください。 pandocのインストール つぎに、今回の主役であるpandocをインストールします。 cabal install pandoc その後 which pandoc でパスが表示されれば成功です。 これでひとまず pandoc main.md -o main.pdf とすることでpdf出力できます。 pandoc-citeprocのインストール このままでもそれっぽいレポートが書けるのですが、参考文献に.bibファイルを使えるとさらに便利になるので、そのための環境を整えます。 cabal install pandoc-citeproc とタイプし、pandoc-citeprocという環境を用意します。 念のためここでもwhich pandoc-citeproc でパスを確認しときましょう。 pandoc-citeprocの使い方を説明します。 いつも使っている.bibファイルの名前を references.bib とします。 中身はよくある文献リストで、次のような感じだとします。 @book{stevens2003aircraft, title={Aircraft control and simulation}, author={Stevens, Brian L and Lewis, Frank L}, year={2003}, publisher={John Wiley \& Sons} } これを....

December 8, 2015

LQG/LTR制御を学んだ

LQG/LTR (Linear Quadratic Gaussian / Loop Transfer Recovery) とは LQGとは、カルマンフィルタを用いて推定した状態に対して、最適レギュレータを用いて状態フィードバックをおこなう、よく知られた制御法です。 LQGが時間領域での制御器設計であるのに対して、周波数領域での設計も考慮するのが、LQG/LTRです。 今回はStein G and Micheal A. The LQG/LTR procedure for multivariable feedback control designを参考にしました。 問題設定 今、制御対象が伝達関数行列$G(s)$としてモデリングされているとします。 ここで、制御対象は非最小位相系であり、同数の入出力をもつとします。 我々の目標は制御対象の出力$y$と参照入力$r$との偏差$e:=r-y$を受け取り、制御入力$u$を生成する制御器$K(s)$を実装することです。 ここで、制御器$K(s)$は以下の要求を満たすことを求められます。 安定化:$G(s)$を安定化する(有界な外乱$d$、参照入力$r$に対して、$y$が有界となる) 良い制御性能:$e$をできるだけ小さくする ロバスト安定化:$G_A(s)$を安定化する(後述) 1だけを達成するための方法はたくさんあるので、本記事では触れません。 2を達成するためには、外乱$d$や参照入力$r$が大きな値を持つ周波数領域で、感度関数 $$ S(s) = (I+G(s)K(s))^{-1} $$ を小さくすることが求められます。 ここでいう"小さい"とは、伝達関数の最大特異値$\sigma_{max}(S(j\omega))$が小さいという意味です。 3について説明します。 一般に、制御対象を完全にモデリングするのは不可能であり、何らかの不確かさを含むと考えるのが自然です。 これは例えば、真のモデルを$G_A(s)$とすると $$ G_A(s) = (I+L(s))G(s) $$ と表すことができます。 ここで、$L(s)$は乗法的不確かさを表す伝達関数行列であり、既知の$m(\omega)$と任意の$\omega$に対して $$ \sigma_{max}(L(j\omega)) < m(\omega) $$ なる関係が成り立つとします。 ここで、簡単な計算から、相補感度関数 $$ T(s) = G(s)K(s)(I+G(s)K(s))^{-1} $$ が任意の$\omega$に対して $$ \sigma_{max}(T(j\omega)) \le \frac{1}{m(\omega)} $$ を満たすことが、$G_A(s)$の安定性の必要十分条件として導出できます。...

December 4, 2015

ボストンキャリアフォーラムに参加してきました

得られたもの ボストンキャリアフォーラム(以下BCF)に参加してきました。 自分は17年度卒なので、就活には少し早いのですが、今年は経団連の指示で採用活動が早まるのと、帰ってから就活に時間を奪われるのが嫌で、あらかじめ選考を進められたらという思いもあっての参加です。 結論から言うと、やはり経団連のパワーのせいか「内定」とはっきりと言ってくれる会社はありませんでした。 しかしながら、ESを提出したのはおよそ10社のうち、4社から「合格」とメールで通知後、内定者の方々が参加するディナーへのお誘いをいただくことができました。 中には「いつまでなら返事をしてくれるか」とオワハラっぽいことをしてきた企業もありました。 今振り返ると、調子のいい言葉や美味しいご飯を使って、学生を確保しておきたい企業の意図を感じないでもないのですが、そのあたりは性善説で解釈したいと思います。 また、およそ1か月前から少しずつ準備をする中で、基本的な自己分析や業界研究を大分進めることができました。 おかげで帰国後の就活がスムーズに進みそうなのは、嬉しい副作用です。 雑感 実は今回が初のアメリカ訪問でした。 初めてヨーロッパに来た時は、町並みなど日本と全く違うことに衝撃を受けたものですが、今回あまり驚きがなかったのは、旅に慣れてきてしまったせいかもしれません。 ボストンは古い都市だと聞きますが、欧州の都市と比べると、むしろ日本の近代的な町並みに近いものを感じました。 また、BCF中に主にアメリカの大学で勉強している人たちと出会う機会があり、印象に残りました。 高校までインターナショナルスクールに通った後、正規留学してきた方や、僕と同じ制御系の研究をしている方で、修士課程を飛び級して博士課程に在籍している方など、日本にいたらまず出会えないような人たちとお話しすることができました。 すぐに人の影響を受ける僕は、どうして海外の大学に進学しなかったんだろうと少し後悔してしまいました。 さらに、空いた日には、MITやハーバード大学、ボストン美術館などを訪れることができ、全体として満足できる休暇になりました。 来年参加する方にアドバイス 奨学金の申請について 競争率は高そうです。 早い者勝ちなところがあるそうなので、申請開始日にちゃっちゃとしちゃいましょう。 また、以前別のキャリアフォーラムで受給している人には、支給されないようになっているそうなので、アカウントを作り直すなどの対策を打つといいかもしれません。 僕は申請が遅れたうえ、前回のロンドンキャリアフォーラムで受給していたのもあり、当然今回は受給できませんでした。 ホテルについて ネットで検索すると、ホテルは高いので早めに予約と書いてあるのですが、Airbnbなどを用いれば直前でも一泊4000円弱で予約できました。 予算を抑えたい方にはオススメです。

November 26, 2015