久しぶりの投稿、しかも旬がすぎたタイトルでの投稿です。
2018年は大企業特有の闇の1年研修を終え、ようやく研究業務を始められた年でした。 企業研究所の研究環境といえば、先日kumagi氏の例の記事がバズりましたね。 記事を読んで、企業研究所の研究環境はどこも似たり寄ったりで、弊社の研究環境も他と同程度には恵まれているのかなという感じがしました。 いろいろ言いたいことはありますが、自分は配属がアタリで、大学のように自由に研究させてもらえる部署だったこともあり、文句を言う前に成果を出さねばと言う気持ちです。
業務内容は物理に近い分野で、自分に馴染みが薄かったため、足りない知識を補うための勉強からはじめました。 業務時間に学べる環境は大変ありがたく、色々な本を発注しては読みふける日々を送っています。 初めのうちは熱統計や流体力学の本を読んでいたのですが、気がつけば仕事に直結しない数学の本まで仕入れ始めていました。
本記事ではその中で読んで良かったと思うものを紹介します。
まず田崎先生の「統計力学」です。 以前統計力学に触れたときは、何が仮定で何が結論かがわかりづらく感じたのですが、本書は納得できる仮定を列挙した上で、力学的な仕事をすべての出発点として議論を展開しているので、数学的にもWell-definedな本だと感じました。 また数理物理の本は行間を推測させるような最小限の記述に留められることが多いと思いますが、本書はそれとは真逆の読み物のような文体で書かれているので、初学者にもとっつきやすく感じられました。 とはいえ内容はしっかりしているため自分もすべて網羅できたわけではなく、今後も手に取り続ける本になりそうです。
次に山田先生の「工学のための関数解析」です。 さまざまな分野に登場する関数解析ですが、自分はとある論文の中で偏微分方程式の解の存在証明に半群の理論が出てきたため、勉強し始めました。 Twitterでおすすめされていた本書を試し読みなしにポチったのですが、これがかなり良くて、数学の厳密さを犠牲にすることなく、概念の「心」をしっかり伝えている本でした。 関数の連続性や収束性と聞くと身構えてしまいますが、「解析の対象が関数になっても、関数を距離で実数に写してあげて、そこで連続性や収束性を考えればよい」と宣言してあるのは目から鱗でした。
こちらもまだ読了したわけではなく、会社の同期と読み会を進めているところです(いつ終わるのやら)。 本書はスペクトル理論や半群の理論はカバーしていないため、読み終わったら次は黒田先生の「関数解析」を読もうと思います。
最後に兼清先生の「確率微分方程式とその応用」です。 確率過程は今まで何度も挑戦しようとした分野なのですが、前提知識が多すぎて挫折を繰り返してきました。 確率を数学の土台に乗せるには測度論の知識が必要ですし、確率過程のサンプルパスは関数になるので、収束性の議論などに関数解析の知識が必要になります。 そのため一から勉強を初めて確率過程の定義に辿り着くころには、土台の部分の知識を忘れてしまうという悲しい現実に直面します。
こんなときにありがたいのは、最小限の用語を定義しながら、時には証明を犠牲にして、ストーリーを重視して伝えてくれるような本であり、本書もまたそのような形式をとっています。 フィルトレーションやマルチンゲールといったつまづきやすい概念の裏にある気持ちをしっかり伝えた上で定理を述べ、その使い方まで提示してくれているのはありがたい限りです(それでも理解できないのは僕の頭がポンコツなのでしょう)。 似たテイストの本として、B.エクセンダールの黄色い本がありますが、自分には兼清本の方がまだリーダーフレンドリーに感じられました。 本書は手にとって間も無く、まだ全然読み進められていないので、引き続き気合い入れて読んでいこうと思います。
余談ですが、確率自体を公理的に定義してしまえば、測度論なしに確率論を進められるっぽいです。 また確率過程論も測度論なしに展開している本があるようで、小倉先生の「物理・工学のための確率過程論」がそれに当たります。 自分は最初この本から勉強し始めたのですが、どうも本質から逃げているように感じてしまい、本棚に戻してしまいました。
以上、おすすめでした。
2018年はインプットは順調でしたが、満足にアウトプット出来なかったことが悔やまれます。 2019年は、引き続き勉強を続けるとともに、アウトプットにも繋げられたらと思います。 目標はつぎの3つです。
- 論文3本投稿: 昨年は一本しか書けませんでした。 初年度にしては上々だと思っていたのですが、尊敬する若手の人たちのホームページを眺めると、いくつものpublicationや講演が並んでおり、悔しい気持ちになります。 彼らに少しでも追いつくためにも、今年は最低3本は書きたいです。
- Webサービス公開: 毎年アウトプット欲が高まる時期に、フレームワークの勉強だけして、満足して何も作らず終わるという現象が続いています。 去年はFlaskでRestAPIの実装をし、Herokuにアップロードするところまで体験できたので、今年は何かしらのサービスを作って実際に公開するところまで進めたいと思います。 どれだけしょぼくてもいいので、見栄をはらずにアウトプットしたいです。目指せいつでも転職できる人材。
- 博士課程の行先の決定: 過去に何度も進学を考えたことがあったのですが、資金面が主な理由で断念してきました。 弊社の社会人博士制度は比較的整っており、社内のロビー活動さえうまくいけば、会社に勤めながら学位を目指すことができます。 幸い上司は理解を示してくれており、あとは行き先だけという感じです。 4月から少し職場環境が変わりそうなので、それを活かしていろんな先生に会ってみようと思います。
みなさま今年もよろしくお願いします。