前回の記事では、ベルギーでの企業研修を終えたこと、今後は日本企業に就職していずれは社会人博士を目指したいことをお話ししました。 しかしながら、企業研修を終える間際、上司に以下のことを言われたのです。
「もし君が望むなら、卒業後うちに来てPhDやらないか」
青天の霹靂とはこのことです。 前回お話しした通り、僕の部署では、大学と会社の両方に籍をおき、それぞれから奨学金と給料をもらいながら、PhDの取得を目指している方が何人もおられます。 提携先の大学は、地元のKU Leuvenであったり、イギリスのBristol Universityであったりと様々です。 うちの部署の上司は、そうした産学連携研究のパートナーを見つけるのが得意だそうで、僕が望めばどこかしらの大学の研究室に在籍させてもらい、さらに生活に必要な奨学金も整えてくれるとおっしゃってくれました。
この提案は、僕にとってこれ以上ないくらい魅力的なものです。 なぜならば、前回書いた、博士課程へ進学することのデメリット
- 最低3年をかけて学ぶ時間的リスクに対して、将来得られるリターンが少ない。
- 学費を支払う金銭的余裕がない。
- 研究自体を目的化したくない。
のうち、少なくとも2と3が解決しそうに思われるからです。
2は、会社からの給料と大学の奨学金によって解決しそうです。
それだけなく、日本には民間機関で海外博士に挑戦する人に奨学金を支給する団体が幾つかあり、それらを組み合わせれば、自活どころか、両親への資金援助も可能かもしれません。
さらに、こちらのサイトに記載されている通り、ヨーロッパの大学の授業料は日本と比べて安値な傾向にあるようです。
3は、単純にこの8か月の研修内容を考えると、大学での研究より応用的な研究ができそうだという予感に起因します。 「航空機を制御する」という明確な問題ありきの研究においては、方針も自ずと明確になり、研究のための研究という事態は避けられそうです。
となると、残るは1です。 ここでは「リスク」と「リターン」をどう捉えるかが問題であり、その点でとても悩んでいます。 まず、リターンですが
- 将来博士の学位を持つことは研究者として自分のキャリアアップになる
- 海外での正規の労働経験は、グローバルな人材としてのキャリアにつながる
- 単純に日本での博士取得に比べ金銭的費用が少なくて済む
などがあると思います。 次に、リスクについてですが
- ヨーロッパでの博士取得は4年。自分の場合30歳で博士を取得することになる
- 30歳になって日本に帰国して、年功序列の社会が自分のキャリアを評価してくれるか不明
- 4年を海外で過ごすことで感じる孤独感、漠然とした不安
- 婚期を逃しそう
などでしょうか。 特に4つめは瑣末に思われるかもしれませんが、僕には重要です。 なぜならば海外生活で得た一つの帰結として、自分は日本人と結婚したいというものがあるからです。 ここベルギーに住む日本人女性の数は多くなく、その中から結婚相手を探すことは難しそうです。 となると30歳になって帰国し婚活するしかないのでしょうが、おっさんになった自分と相思相愛の関係になる女性に出会える保証はどこにもありません。 またこれは3つめにも繋がるのですが、大切な人に支えてもらわないと、海外生活を乗り切れる自信がありません(甘いことを言っている自覚はあります)。
2つめについてですが、そもそも日本に帰国するのか、という問題があります。 一般に、日本の労働環境はお世辞にも良いとはいえず、文化の壁を克服し、現地に順応さえできれば、将来的にも欧州で生活していくことも、一つのプランとして考えられそうです(これも結婚相手を見つけられた場合)。 また、こちらでは年功序列の文化がほとんどないので、博士習得にかかる時間的リスクも自ずと減ります。
さて、長々と書き綴りましたが、結局どうするかはまだ決まっていません。 幸い上司には、修士を終える数ヶ月前に連絡をするよう言われており、悩むにはまだ時間がありそうです(ただし、日本の民間奨学金の締め切りが8月に来るので、こちらがボトルネックになりそう)。 それまで、日本での就活を通じて、研究職としてのキャリアを探りながら、いずれ決断したいと思います。